堺打刃物
1:刃物の町
2:歴史
3:今なお続く打ち刃物の鍛錬する音
4:刃物の魅力
5:作り手と使い手と伝い手と。繋ぐ伝統。
に分けてお伝えしたいと思います。
1:刃物の町
日本には古来より鋼を扱う鍛冶屋が存在し、日本刀はじめ農機具の製作で鍛錬技術が発達してきました。
各地方によって、その技術は独特な発展を遂げていきますが、その中でも大阪にある堺市は現在でもプロ仕様の包丁のシェア90%を誇る程、刃物の伝統産業地となっています。
2:歴史
その歴史は古く、鍛鉄技術は5世紀の古墳時代にさかのぼります。平安時代からは日本刀の鍛冶屋職人が集まり発展していきます。室町に入ると煙草が海外から入ってくるようになり、その葉を刻む包丁からその切れ味の鋭い刃物に注目されるようになりました。
戦国時代には鉄砲が伝来し、堺の地で作られるようになります。その鍛造技術は高く評価され、重要な役割を担いました。
江戸時代には徳川幕府から刃物の品質の高さを認められて他の産地のものと区別されるまでになりました。
堺には様々な包丁の開発された歴史もあり、出刃包丁やフグの薄切りに使う、フグ引きもこの堺で開発されたと言われています。
3:今なお続く打ち刃物の鍛錬する音
そんな長い歴史を持つ刃物の町、堺市でも現在後継者不足の為に職人が減ってきているという危機にさらされています。原因として、「育成ができる受け入れ先がない。」「材料が高騰や不足して、作ることが出来ない。」「カット野菜や、切り身魚の販売による包丁離れ」があります。
以前は町を歩くと鍛錬する鋼を打つ音が至る所で聞こえていたそうですが、今ではその鍛冶屋も数少なくなっています。
4:刃物の魅力
私が初めて堺の和包丁を購入したのが水野鍛錬所の三徳包丁です。元々こちらでは刀匠の資格もお持ちの職人が古式鍛錬の公開などもされており、創業1872年明治5年(1872年)創業の日本刀・庖丁を鍛える鍛錬所となっています。
私自身今までステンレスの包丁を使ってきましたが、鋼の包丁にして驚くのはその切れ味。プロ仕様ではありませんが、それでもあまり力を入れずに切ることが出来るうえ、その切り口が潰れないのです。特に玉ねぎを切るときに体験し、多少の個人差はあるかと思いますが、涙が出ません。そして切り口が放置していてもみずみずしいのです。聞くと組織が潰れずに切れているから、とか。私が感動して職人に伝えると「それが当たり前、それが包丁だからね」と言われました。今までの包丁って何だったの?と思うほどです。
また、包丁の重心が持ち手の柄部分ではなく、刃の方につまりは前方にあるので、鋼の包丁は、鉄と鋼の2枚構造になっています。熱で合わせて一つにし、刃の部分は硬い鋼が出る様に作られています。
また、本鍛錬といって、鋼のみで作られている和包丁もあります。
こちらは日本刀の制作方法と同じく、「土置き」をし「刃文」の意匠を施されたものです。鋼の中に雲のような模様を意図的に描きだす作業ですが、こちらは研いでもその鋼の模様は消えることがありません。
焼き入れによって鋼に焼き付けられ研磨することで見事な刃文が表れるのです。
和包丁の職人の中でもこのような日本刀と同じ制作方法で作る職人は、刀匠の肩書を持つ者でないと出来ない事なので貴重な作品と言えます。
最近では一般的になったステンレスの包丁ですが、確かに「さびにくい」という使いやすさはあります。
しかし、鋼の方がこの硬さと切れ味が長持ちします。ステンレスに比べ、もちろん「錆びる」ということはありますが、都度タオルで拭き、水気をとっていれば非常に長持ちするので、何十年と使うことが出来ます。
良く切れる事で
- 食物繊維や細胞を少ないダメージでカットするので栄養、旨味を逃がさないので「料理がおいしくなる」
- すぐ切れるから「調理時間が短くなる」
- 研ぐことで刃の切れ味を保つことができるので「包丁が長持ちする」
といった点から鋼包丁の方が魅力的に思えます。
5:作り手と使い手と伝い手と。繋ぐ伝統。
日本人は昔からモノを大切にする習慣がありました。包丁の制作工程にも修理ができるように、一部に手打ちで歪みを直せるように鉄部分を確保し、柄の部分も修理できるように工夫されています。
作り手の職人は、実際に使う人の事を想像し、持ちやすさや品質にこだわりを持って制作します。そして使い手がそれを選ぶ。私は料理人ではありませんが、「この包丁はいい」という「ある一線」は感じるようです。使い手も「感覚」で自分に合ったものを手にすると思いますが、堺の包丁には選ばれる理由があってプロ仕様の包丁が多く作られているのは確かです。
料理をするのに欠かせない包丁ですが、意識して「道具を選ぶ」ことで料理が楽しく思えて、使って体験することで「いいモノ」に触れると感動することができます。
きっと日本の伝統刃物の質の高さに触れて、モノに対して「誇り」を持つことでしょう。
いつまでもその技術が継承され、妥協のない「モノづくり」を続けてほしいと感じる工芸品です。